ガレージのシャッターの外から無機質な足音が近づいてくる。
「デバイスを回収する。抵抗はやめろ。人間の子供。」
天界の監査官たちの声が響く。
「ハルト。スマホをかして!そのスマホをハッキングする!」ユリカが叫び「え!そんなことできるの?」と戸惑いながらスマホを渡すハルト。
「やるっきゃないでしょ!」自身の特製ノートパソコンを神の端末につなぎ高速で手を動かすユリカ。画面には見たこともないような幾何学模様が浮かび上がる。ユリカのハッキングによって数百年後の技術が現代に呼び出され、ガレージ全体を包む強力な電磁障壁(バリアー)が展開された。空間がデジタルノイズのように歪み監査官たちの動きがスローモーションになる。
「今よっ!」ユリカの改造スケボーに3人で飛び乗り、監査官たちの包囲網を光の尾を引いて突き抜ける。目指すは源さんの古文書が指し示す古い社(やしろ)の跡地だ。
そこには神さまのスマホの背面に刻印されたものと同じ「ゼウスの雷」の紋章が彫られた石の祭壇があった。しかし端末を石の窪みに置いても何も起きない。バッテリー残量はついに3%を切った。
「どうすればいいの......?充電の方法が書いてない!!」焦るユイカに源さんは古文書の最後の1行を静かに読み上げた。
「火は、孤独を癒やすために分け与えられた.......」
「ユリカ、プロメテウスが火を盗んだのは神への反逆じゃない。不器用な人間たちが寄り添って生きる姿が愛おしかったからなんだ。充電の方法は純粋に人を助けたいと思う気持ちなんだ!」
その言葉を聞いたハルトは目をつむり、スマホをぎゅっと抱きしめた。
(........お婆さんの荷物が重そうだったから助けたかった。この世界のみんながパニックになっているのを助けたい、ただ、それだけなんだ...!!)
ハルトの胸の奥から溢れ出た純粋な助けたいという願い。その瞬間、スマホがまばゆいばかりの青い光を放った。
【Status:Hart Link Charge Complete】
画面に文字が踊り、バッテリーが100%へと跳ね上がる。空に浮かんでいた2つの月が溶けるように消え、お菓子に変わっていた学校も、しゃべる犬たちも、全てが正しい形へと最構築されてゆく。
光の中から、あの日のお婆さんが現れた。
「人間にはまだ助ける価値があるようね。でも、このデバイスはあなたたちにはまだ早すぎたみたい」
お婆さんは優しく笑い、ハルトの手からスマホを受け取った。そして少年の頭を優しくなでる。
「でも、機械の力なんかより、もっと大切なものを手に入れたわね。それは、誰にも奪えない、あなたの本当の力よ」
気がつくとハルトは駅前のベンチに1人で座っていた。手元にあった重いスマホは消え、代わりにポケットにはお婆さんから貰った飴玉が一つだけ残っていた。
それから数ヶ月後。
ユリカは「自分の力で未来の技術を証明する」と言い残し、アメリカの大学へ飛び級で留学していった。源さんの古本屋は偏屈な店主のせいで静かだが、時折、ハルトが遊びに行くと、源さんは嬉しそうに新しい神話の本を開いてくれる。
ハルトは普通の小学2年生に戻った。放課後、友だちと走り出すハルトがふと、空を見上げる。そこにはハルシネーション(幻覚)の一切ない、どこまでも、澄みきった、吸い込まれるような青空がひろがっていた。